近年では、実際に手を触れなくても自動で動いてくれる家電や機器が増えてきました。たとえば、これまでのテレビゲームはボタン操作で動かすのが基本でしたが、Wiiリモコンでは、リモコンを振るだけでゲームを楽しむことができます。
このような技術は「フィジカルコンピューティング」と呼ばれており、実はビジネス分野や教育分野などで既に活用されているのです。そこで今回は、フィジカルコンピューティングの基礎知識や、ビジネス・教育への活用事例についてご紹介します。
フィジカルコンピューティングの基礎知識
今回「フィジカルコンピューティングという言葉を初めて聞いた」という人のために、ここではフィジカルコンピューティングの基礎知識についてみていきましょう。
フィジカルコンピューティング(Physical Computing)とは
フィジカルコンピューティングとは、人間の体が示す情報とコンピュータを、さまざまなセンサー技術を使って結びつける手法のことをいいます。コンピュータを動かすためにはディスプレイやキーボードといったインターフェースが必要になりますが、フィジカルコンピューティングを利用すれば、手の動きや顔の表情、音声でコンピュータを動かすことが可能です。そのため、「従来の入力装置に代わる技術」ともいわれており、IoT製品の技術として用いられることが多くなっています。
また、フィジカルコンピューティングでは、入力デバイスとマイクロコンピュータをつなぐ電子工作やマイクロコンピュータのプログラミングを行う必要があり、オープンソースハードウェアとして幅広く活用されているイタリア製ワンボードマイコン「Arduino(アルデュイーノ)」が研究に活用されることが多いです。
*ワンボードマイコンとは、むき出しのボードに電子部品や入出力装置が配置された簡易的なマイクロコンピュータのことです。
フィジカルコンピューティングを活用するメリット
フィジカルコンピューティングでは、人間の動きや声をコンピュータがそのまま読み取ってくれるので、入力の手間がかなり省けます。また、従来の入力装置に比べて人間の意思がより伝えやすくなるという期待がされており、AI技術に組み合わせることで、人間と接するのと同じように機械とコミュニケーションを取ることが可能です。
フィジカルコンピューティングを活用することで、家庭用ロボット掃除機やスマートスピーカーなど、ちょっと前までは考えられなかった商品が誕生し、現代はかなり便利な時代となりました。そしてこれからも、アイデア次第でイノベーションを起こせる可能性があるでしょう。
フィジカルコンピューティングのビジネスへの活用事例
フィジカルコンピューティングは、私たちの生活のさまざまなシーンで既に活用されています。まずはビジネスシーンにおける主な活用事例を紹介しましょう。
センサー搭載のゲーム機
フィジカルコンピューティングが活用されているゲームでは、コントローラーのリモコンを操作するのではなく、体の動きで操作をしていきます。ゲーム機に搭載されているさまざまなセンサーが体のデータを取り込み、動きを把握することで操作が可能になるのですが、これには加速度センサーや赤外線センサー、距離センサーなど実にさまざまなセンサーが必要です。
【WiiリモコンやSIXAXISコントローラー(Bluetoothによる無線接続が可能なPLAYSTATION 3、4用コントローラー)に搭載されている主なセンサー】
加速度センサー
赤外線センサー
距離センサー
流量センサー
温度センサー
圧力センサー
超音波センサーなど
音声認識スピーカー
音声認識スピーカーとは、音声認識で個人を判断し、その人が購入したいものや聞きたい音楽を判断してくれるスピーカーのことで、最近テレビでもよく見かける「スマートスピーカー」がこれに当たります。
家庭用製品では「Amazon Echo」や「Google Home」などがありますが、どれも音声を認識するためのセンサーが搭載されていて、スピーカーに話しかけるだけで買い物や音楽再生が可能です。また、しっかりと声を認識できるよう、複数のユーザーの声を聞き分けられる機能や、ノイズリダクション、エコーキャンセルといった機能も搭載されています。
人感センサーエアコン
人感センサーエアコンは、節電や利用する人が快適に過ごせるようにするためのエアコンで、部屋の状況を判断したり、自動で電源のON・OFFを判断したりしてくれます。人の居場所や活動量、体温などもセンサーによって把握することができ、常に適温で過ごすことが可能です。
また、人の体温というのは室温だけではなく、日が差して窓の外が明るくなることでも高まります。そのため、高機能なエアコンでは日差しの強さや明るさの変化まで検知し、体感温度に合わせて温度設定ができるものもあります。
教育に活用されるフィジカルコンピューティングの事例
こうしてみると、フィジカルコンピューティングは家電製品に多く取り入れられているように思えますが、実は子供たちの教育現場でも活用されているのです。
学校教育への活用
もともとフィジカルコンピューティングは、ニューヨーク大学の教育プログラムとして導入されていたものであり、現在では日本国内でも大学を中心に研究が進められています。
【主な研究例】
センサーを活用して電気の点灯・消灯するプログラム
明るさで音が変化する楽器
歩くと地図の画面が前に進むプログラムなど
国立大学法人九州工業大学の情報工学部(赤塚キャンパス)においては、2009年よりフィジカルコンピューティングの授業を開始しており、実際に電子回路をつくってプログラミングをする実習形式となっています。授業は週1回・3時間行われ、電子オルゴールに選曲機能を加えたミュージックボックスや、LEDマトリックスに文字列が流れて表示される電光掲示板など、さまざまなシステムがつくりあげられています。
近年では、科学と数学を重点的に学ぶというSTEM教育が世界的に注目されていますが、フィジカルコンピューティングはSTEM教育の一環としても活用されており、小学校、中学校、高校の授業でフィジカルコンピューティングを活用しているという学校も少なくありません。STEM教育は、これから迎える本格的なAI時代に備え科学分野の知識を身に付けるとともに、子供たちが自ら考え、課題を解決する能力を育成することが目的となっています。
*STEM教育とは科学分野の教育の総称で、Science(科学)、Technology(技術)、
Engineering(工学)、 Mathematics(数学)の頭文字を取ったものです。
プログラミング教室への導入
プログラミング教室では、センサー技術やプログラミングで稼働するキットなどが用意されており、子供たちにとって学習しやすい環境が整っています。つまり、プログラミング教室でもフィジカルコンピューティングが活用されているということです。
プログラミング教室は、レベルによって学習する内容も違うので、電子回路やプログラミングを無理なく学ぶことができます。また、2020年からは小学校でのプログラミング教育が必修化になることから、「子供の習い事」として非常に注目を集めているのです。
技術革新を起こすフィジカルコンピューティング
フィジカルコンピューティングは、私たちの身近で既に活用されている技術であり、今後もアイデア次第でさまざまな商品を生み出すことができます。
そして、これからSTEM教育を受ける子供たちは、数学的な知識はもちろん、フィジカルコンピューティングに必要な電子回路やプログラミングも学ぶことになりますから、自分の子供がイノベーションを起こす可能性だってあるのです。
そんなフィジカルコンピューティングの今後にもぜひ注目していきましょう。