近年よく耳にするようになった「STEM教育」ですが、海外では既に導入されているところが多く、STEM教育が国家戦略になっている国も少なくありません。私たちが暮らす日本でもSTEM教育は着実に広まっており、これからの時代を生き抜く子供たちには必要不可欠だと考えられているのです。
そこで今回は、STEM教育の基礎知識や、親が子供の学習をサポートするためにできることについてご紹介します。
STEM教育の基礎知識
STEM教育は日本の教育機関でも徐々に導入が始まっており、現在小・中学生の子供たちは高い確率で今後STEM教育を受けることになります。ここでは、STEM教育の基礎知識についてみていきましょう。
STEM教育とは?
STEM教育とは、「科学」と「数学」の2分野を重点的に学ぶ教育のことをいいます。STEM(ステム)は科学・技術・工学・数学を総称した言葉で、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)の頭文字を取ったものです。
1990年代にアメリカでSMETとして提唱されたのが始まりとされていますが、「smut(汚れ)」を連想させるとして2003年頃にアルファベットの順番が変更され、現在のSTEMになりました。そんなSTEM教育が今になって注目され出したのは、アメリカのオバマ前大統領がきっかけです。
オバマ前大統領は、2009年の就任時に「We’ll restore science to its rightful place.(科学を本来あるべき地位に戻す)」と演説し、STEM教育導入の具体的な目標を示しました。これにより、アメリカを中心にSTEM教育が広まり、今では世界中で注目されるようになったのです。
【STEM 教育について、オバマ前大統領が示した戦略】
・2020年までに初等および中等教育におけるSTEM分野の優れた教育者を養成。あらたに10万人を確保するとともに、現在活躍しているSTEM教員の支援も行う。
・高等学校卒業までにSTEM分野に触れる若者の数を、毎年50パーセント増加させる。
・大学学部生におけるSTEM分野の卒業生を、今後10年間で100万人増やす。
・これまでSTEM分野において主流派ではなかった層からの学位取得者を今後10年間で増やす。また、同分野の女性の参加の促進を目指す。
・大学院教育において、STEMの基礎研究から応用研究まで学べる制度を提供。
STEM教育に期待されること
STEM教育では科学、数学を重点的に学ぶことになりますから、科学技術やビジネス分野で国際的に活躍できる人材を育てることができます。
現在は人工知能やIoTの活用による第4次産業革命の進展が求められる時代であり、STEM教育で基礎電子工学やプログラミング、パソコンの技術を学ぶことによって、世界における科学技術の優位性が保てることになるのです。
また、STEM教育ではさまざまなテクノロジーを通して、実社会の事例を活用して学ぶことができます。例えば、「健康科学で科学を活用するにはどうしたら良いか」という課題に対し、実際に人体から脈拍数のデータを収集してデジタル心拍センサーを制作することが可能ですので、子供たちは学ぶ意味を意識した学習が可能です。
近年では、本格的なAI時代の到来を前に、AIに置き換えられにくい創造力や感性を育むことや、ロボット工学を学習することが重視されているため、STEMに「Art(芸術)」を加えたSTEAMや、さらに「Robotics(ロボット)」を含めたSTREAMといった教育方法も注目され始めています。
海外と日本のSTEM教育の現状
日本ではまだまだ馴染みのないSTEM教育ですが、アメリカやヨーロッパ、東南アジアではすでに導入が進められており、中にはSTEM教育を国家戦略としている国もあります。この章では、STEM教育の導入における日本と各国の取り組みをみていきましょう。
海外でのSTEM教育
現在、STEM教育は世界中で注目されていますが、その中でも特に積極的なのがアメリカ、シンガポール、中国、インド、イギリスの5カ国です。
・アメリカ
オバマ前大統領がSTEM教育の導入を発表したアメリカでは、2013年に国家科学技術会議(NSTC)によって「STEM教育5カ年戦略計画」が発表されました。
その主な内容は
小学校から高校までの間にSTEM教育を受けた経験を持つ学生を増加させる
STEM教育分野の大学の卒業生を増加させる
2020年までにSTEM分野の初等・中等の教員10万人を目指す
といったもので、オバマ前大統領が就任時に示した具体目標がベースになっています。中でも「2020年までにSTEM分野の教員を10万人に増やす」といった計画については、年間数十億ドルという膨大な予算が投じられており、タブレットを使った授業やプログラミング学習、ロボットの組み立てなどが行われています。
また、2018年にはSTEM教育に年間2億ドルの補助金を出すよう、トランプ大統領から教育省に指示が出されていて、STEM教育の環境整備をさらに推進し、すべての子供たちが最先端の教育を受けられるようになってきているのです。
・シンガポール
シンガポールはSTEM教育の先進国といわれており、小学校高学年からは算数や理科を専門教師が教えるようになります。また、座学だけではなく、体験学習(ハンズオン)を重視した教育スタイルとなっていて、プログラミングや工学、ロボット工学、環境・保健科学などに関する展示をしている政府運営の科学館サイエンスセンターが中心となりSTEM教育を推進しています。
・中国
中国では、2010年頃から実験学校の設置や指定などを行う「イノベーション人材を育成する改革試行プロジェクト」を実施しています。その中のひとつとなる「翺翔(こうしょう)計画」では、一般高校200校と教育拠点校29校、さらに大学等36機関の3者が連携し、生徒が研究者のもとで各自の課題に取り組むという、結果よりもプロセスを重視した人材育成策が行われています。
・インド
アジアの新興国となるインドでもSTEM教育は盛んで、2015年からは6歳~18歳の子供たちを対象にした「Rashtriya Avishkar Abhiyan」という科学プロジェクトがスタートしました。このプロジェクトは国が主体となっており、子供でも本格的な科学技術が学べる内容になっています。
・イギリス
イギリスでは、5歳~7歳でモノの構造や3Dプリンターなどの使い方を学び、7歳~11歳の間にスイッチや電球、モーターといった電気を使ったモノづくりを体験します。また、それと同時にコンピューター制御の知識も学ぶという、かなり本格的なSTEM授業が実施されているのです。
さらに、11歳~14歳になると今度はスケッチ方法やモノづくりの計画立案、3Dモデリング作業といった製品開発の一連を学び、今後はそこにプレゼンテーションの方法が取り入れられる予定です。
日本でのSTEM教育
日本はSTEM教育後進国と見られており、STEM教育の研究や普及、シンポジウム、セミナーの開催などを行うSTEM教育学会が、2017年にようやく設立されました。そのため、これから徐々に普及していく見通しです。
【日本で導入されているSTEM教育】
◆小学校
プログラミング必須化(2020年より)
◆中学生
技術・家庭科の授業において「プログラムによる計測・制御」「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミング」が加わる
◆高校生
必修科目「情報Ⅰ」を新設し、選択科目で「理数探究」を導入
情報Ⅰ:プログラミングやネットワーク、データベースの基礎について学ぶ
理数探求:数学と理科にまたがる内容を学習する
そのほか、全国に200校以上の指定校が存在する「スーパーサイエンスハイスクール(SSH)」の増加推進や、STEMを取り入れた入試制度やセンター試験の見直し、さらに国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)によるSTEM分野のコンテストやプログラムの実施も行われています。
STEM教育を学ぶ子供のために親ができること
小学生や中学生の子供がいる家庭では、これから本格的なSTEM教育を受けることになります。そのため、やや不安を感じているご両親もいると思いますが、事前にちょっとした準備をしておけば、STEM教育もスムーズに受け入れることができます。
今後子供たちは新しい教育の中で成長していくことになるため、ご両親の協力が非常に大切になります。子供たちが苦手意識を持ってしまうと上達が難しくなってしまうので、楽しみながら学習ができるようご両親が工夫をしてあげましょう。
STEM玩具で遊ばせる
最近はさまざまなSTEM玩具があり、遊びながら数字や計算の勉強ができたり、ゲーム感覚でプログラミングが学べたりする、アプリや学習キットが存在します。中には簡単なロボットを作れるようなものもあるので、まずはこういった玩具で遊ばせるのがおすすめです。
基本的なパソコンの操作を教える
STEM教育ではパソコン操作が必要不可欠になりますので、基本的なパソコンの操作方法を教えておくのも良いでしょう。マウスの操作やタイピング、キーボードの配置といった簡単なことを覚えておくだけでも、パソコンを使った操作がスムーズに行いやすくなります。
科学実験教室に通わせる
STEM教育が注目されるようになってからは、子供の習い事として科学実験教室が増えてきました。学校で行う理科の実験同様、塩を水に溶かしたり雪の結晶を作ったりする内容で、実験や観察を通して楽しく学ぶことができます。
そのため、子供が幼いうちから科学実験教室に通わせているという家庭も少なくありません。
プログラミング教室に通わせる
STEM教育の醍醐味となるのがプログラミングです。言語にもよりますが、プログラミングは習得が難しく、一度苦手意識を持ってしまうと挫折に繋がる可能性が高まります。しかし、プログラミング教室でロボットの組み立て、自分の発想を基にしたゲームの開発をすることで、実際の教育現場でも楽しみながら学習できるでしょう。
新時代を生むSTEM教育
科学と数学を重点的に学ぶSTEM教育は、これまでにはない全く新しい教育スタイルです。導入が後れている日本ではまだ馴染みがありませんが、さまざまな教育機関で着実に広がりをみせており、これから小学校・中学校に進学する子供たちは高い確率でSTEM教育を受けることとなります。
新しい教育ということで構えてしまうご両親も多いですが、簡単なパソコン操作を教えたり、STEM玩具で遊ばせたりするだけでも、子供が抵抗なく受け入れられるようになりますので、早いうちから少しずつ準備を進めていきましょう。