日本では、2012年からすでに全国の中学校でプログラミングが必修となっており、2020年からは小学校でも必修化になります。「小学生でプログラミングはまだ早いのでは?」と感じるご両親も多いと思いますが、ほかの先進国ではかなり前から低学年の選択科目に「プログラミング」が取り入れられており、日本が遅れているという見方もできるのです。
そこで今回は、海外や日本のプログラミング教育事情について、事例とともにご紹介します。
海外のプログラミング教育事情とは?
プログラミング教育は日本に限ったものではなく、ほかにも多くの国で導入されており、今や世界中で推進されているといっても過言ではありません。
プログラミング教育を行っている国の例
海外の学校ではすでにプログラミング教育を導入しているところが多く、「まだ早いだろう」と思われる小学校でもプログラミングが積極的に取り入れられています。
◆初等教育(日本では小学校)で実施している国
イギリス/ハンガリー/ロシアなど
イギリス(イングランド)やハンガリー、ロシアでは、初等教育から前期中等教育(小学校から中学校)まで必修科目としてプログラミング教育が導入されており、ロボットなどを動かして体験的に学ぶ方法が主流です。その後、後期中等教育段階(高等学校)からは選択科目として実施され、プログラミングに興味が持てた人や、将来プログラマーになりたい人が積極的に学んでいくようになります。
◆前期中等教育段階(日本では中学校)で実施している国
香港/韓国/シンガポールなど
香港や韓国、シンガポールでは中学校からプログラミング学習が導入されており、このうち香港では必修、韓国・シンガポールでは選択科目となっています。
◆後期中等教育段階(日本では高等学校)で実施している国
上海/イスラエル/フランス/イタリア/スウェーデン/カナダ/アルゼンチン/台湾/インド/南アフリカなど
高等学校でのプログラミング教育については、非常に多くの国が導入しており、ロシアやイスラエル、上海では必修科目となっています。一方、フランスやイタリア、スウェーデンといった多数の国では選択科目として導入しており、プログラミング学習の有無を自分で選ぶことが可能です。
海外の国々がプログラミング教育を推進する理由
海外では多くの国でプログラミング教育が推進されていますが、そこには主に3つの理由があります。
① 論理的思考力を育てる
② 情報技術を活用するための知識や技術を習得する
③ ICT人材を育成する(情報通信技術を駆使できる人材)
情報社会が進展する中、論理的思考力や情報技術の活用は必要不可といわれており、エストニアや韓国、シンガポールなどは、産業界からの要請により高度なICT人材を育成しなければならないという理由もあります。
※参考:平成27年3月発表 文部科学省「情報教育指導力向上支援事業(諸外国におけるプログラミング教育に関する調査研究)」
海外のプログラミング教育の事例
プログラミング教育は今や世界的に導入されつつありますが、実際の教育事情は国によって違います。ここでは、プログラミング教育が特に盛んな3カ国をみていきましょう。
イギリス(イングランド)
・特徴
イギリスでは、2014年のナショナルカリキュラム(教育の国家基準)で「Computing」という教科が導入されるようになりました。Computingはアルゴリズムの理解やプログラミング言語の学習を取り入れた教科となっており、初等教育から中等教育(5~16歳までの義務教育期間)までは必修となっています。
・主な指導内容
【初等教育】
アルゴリズムについて理解する
簡単なプログラム作成とデバッグができるようになる
論理的推論により、簡単なプログラムの挙動予測を行う
学校外での一般的な情報技術の利用について認識するなど
【中等教育】
現実世界の課題や物理的システムの状態、ふるまいをあらわすコンピュータモデルを設計・利用・評価する
複数のプログラミング言語を使って、計算問題を解決するなど
・指導時間
プライマリースクール:週1時間程度(学級担任が指導)
セカンダリースクール:週1~2 時間程度(専任の教員が指導)
エストニア
・特徴
バルト三国のひとつとなるエストニアは、無料のコミュニケーションツールとして爆発的な人気となったSkypeが誕生した国でもあり、IT先進国として知られています。エストニアでは早い段階から公的機関などのオンラインサービス化が浸透しており、2012年には「Tiger Leap Foundation」というプログラミング教育推進プログラムが開始されました。これにより、小学校1年生から12年間にわたってプログラミング教育が実施されています。
・主な指導内容
【ベーシックスクール(9年間)】
コンピュータを用いた基本的なラーニング及び、ワーキングスキルの向上
ITを用いる際に生じうる健康状態やセキュリティ、個人情報保護への脅威から身を守る方法を理解する
バーチャルなコミュニティに参加し、オンライン環境を利用してデジタルデータを公表する
*アッパーセカンダリースクール(3年間)は、学校により指導内容が異なる
・指導時間
ベーシックスクール・アッパーセカンダリースクールともに、明確な時間は決められていません。
フィンランド
・特徴
フィンランドでは、「インターネットに接続する権利」というのが国民の権利として国に保証されているという、まさにIT大国といっても過言ではありません。プログラミング教育に関しては、2016年に小学校1年生から9年間の学習が必修化となり、視覚的なパーツになっている「ビジュアルプログラミング言語」を取り入れた授業が主流です。
・主な指導内容
【1~2年生】
プログラミングでは、コンピュータに正確な指示を送ることが重要だと習得し、ほかの学習者に明確な指示を与える
【3~6年生】
テキストベースのプログラミング言語は使用せず、Scratchなどのカジュアルプログラミングを使用する
【7~9年生】
実用性のあるプログラミング言語を学び始める
・指導時間
1~9年生まで、明確な指導時間は決められていませんが、1~6年生に対しては学級担任が、7~9年生に対しては数学の教員がプログラミング授業を実施します。
日本のプログラミング教育事情
すでに小学校でのプログラミング教育が導入されている国が多い中、日本ではどんな取り組みが行われているのでしょうか。
2020年から小学校で必修化
日本でも2020年から小学校でのプログラミング教育が必修化となり、子供たちに体験させながらプログラミング的思考を育てるといった取り組みが始まります。プログラミング思考とは論理的思考力のことをいい、意図した処理をコンピュータに行わせるために必要不可欠となる考え方です。
つまり、小学校でのプログラミング教育は、プログラミング言語やコーディングを覚えることが目的ではないのです。
これまで取り組まれてきた普及推進の事例
2020年の小学校でのプログラミング教育必修化を前に、いちはやく普及推進に取り組んでいる地域もあります。
例えば、新潟県では一部の小中学校で地域活性化策をプログラミングで表現・提案しており、愛知県では一部の中学校で「アプリ開発」「ゲームクリエイター入門」「Webデザイン」といった3コースを開講し、希望する生徒は受講が可能です。また、徳島県でもプログラミングで人形浄瑠璃の人形を動かす教材を開発し、実際に小学校で使用されています。
こういった普及推進に取り組んでいる地域は意外と多く、日本でもプログラミング教育が着実に浸透してきているといえるでしょう。
※参考:平成29年6月発表 総務省『「若年層に対するプログラミング教育の普及推進」事業』
今後は日本でもプログラミング教育が普及する
海外では、何年も前からすでにプログラミング教育を導入している国が多く、必修科目として学ばざるを得ない環境をつくっている国もあります。また、国によって教育事情も違いますが、今後は世界的にプログラマー需要が増えるといえるでしょう。
そんな中、日本のプログラミング教育はやや後れ気味だといえますが、以前より普及推進に取り組んでいる地域があったり、すでに中学校ではプログラミング教育が導入されていたりと、完全に後れを取っているわけではありません。
2020年以降も、さまざまなシーンでプログラミング教育が導入される可能性がありますので、「まだ早い」という考えは捨ててぜひ積極的にプログラミングを取り入れていきましょう。