職業の変遷は、私たちが思っている以上に急速なものです。平成初期に繁栄を誇っていた大企業の中には、合併や倒産などを経験して消滅したところもあります。またテクノロジーの発展によって、平成初期には少なかったIT関連の会社が平成末期にはいくつも大きく成長しました。
今回は、これまでとこれからの社会の変化を踏まえて、将来を生きる子供たちの未来の仕事がどう変わるかご説明します。新しい職業についても、具体的にご紹介します。
21世紀に生まれた新しい職業とその背景
社会の変化に伴い、20世紀には考えられなかったような職業が次々と生まれています。そうした職業をいくつかご紹介するとともに、その背景にある社会の変化をご説明します。
新しい職業が誕生した背景
さまざまな要因が考えられますが、やはりテクノロジーの発達が最も大きいと言えるでしょう。インターネット回線速度が高速化したことで、インターネット経由で提供されるサービスの質とスピードが劇的に改善されました。高速化したインターネットは国境や距離の壁をいとも簡単に飛び越え、世界中のサービスプロバイダーと消費者を結びつけることができるようになりました。自宅を職場とし、個人で仕事をするケースも増えています。
インターネットを使えば、これまで「ごく一部のマニア向け」としか思われなかったサービスでも世界中の消費者をサポートできます。国内だけなら商売として成立するレベルではなかったかもしれませんが、世界中へ展開できれば十分に利益を出すことができます。
インターネットに関連して、スマートフォンの普及も見逃せません。発展途上国の多くでは、デスクトップやノートパソコンなどの普及が進んでいません。機器が不足すること、高価であることなどがその理由です。しかしスマートフォンであれば、発展途上国の消費者でも手を出せます。そのため、こうした国々ではスマートフォンを窓口としてインターネットにアクセスできるようになったのです。
AI(人工知能)の発達も大きなインパクトを持っています。膨大なデータを機械・ロボットが自動的に管理・分析・共有できるので、データを基に生み出される価値が大きくなりました。これまで人間が手で行ってきた作業がなくなる代わりに、データを使用した新たな職業が次々と生まれています。人・モノ・金に加えて、データ(情報)が経営資源とされる時代が到来しました。
21世紀に生まれた主な新しい職業
それでは、具体的にこの10~20年間で誕生した職業を挙げてみましょう。
・YouTuber
動画投稿サイトのYouTubeに動画を投稿し、視聴合計回数に応じて広告収入を受け取る職業です。広告ポスターやCMなどでも取り上げられることが多く、トップYouTuberは小学生・中学生の憧れにもなっています。毎日のように動画を投稿し自ら編集するのは大変であり、会社員以上に勤勉さや企画力など、幅広いスキルが求められる職業です。
・プロゲーマー
格闘ゲームやサッカーゲームなどの腕を発揮して、大会の賞金やスポンサー料などを獲得する職業です。20世紀には「ゲーム=遊び」という固定観念が存在しましたが、今では立派な職業として認知されつつあります。近い将来には、オリンピックを始めとした国際的な競技大会の種目になるのではないかとも言われているほどです。
・ゲーム実況者
プロゲーマーほどの腕がなくても、ゲームをやりながら実況中継することで視聴者を集め、広告収入を得る職業も存在します。ゲームの腕はプロ級でなくてもよいのですが、実況者自身の知名度ないし実況の腕(面白さ)などがないといけません。YouTubeを始め、動画投稿サイトへゲームプレイ動画をこつこつアップする必要があります。
・プロブロガー
ブログを開設して記事を書き続け、広告を表示させ、集めたアクセス数や記事の中で紹介した商品・サービスの売上に応じて広告収入を得る職業です。文章力はもちろんのこと、執筆者自身のキャラクター、アクセスを集め続けられる話題性、商品・サービスを売り込むマーケティング力や営業力などのスキルが求められます。
・ドローン操縦士
遠隔操縦ないし自律式の無人航空機を操縦する仕事です。ドローンを使えば、これまで考えられなかった角度から画像や映像を撮影できます。また警備や測量、農薬散布などドローンの用途が広がるにつれ、収入を得る方法も増えてきています。今後は、ドローンを活用した配送サービスが実現するのではないかと期待されています。
・VRデザイナー
VRとはヴァーチャルリアリティ(Virtual Reality)のことです。VR世界を体験できるゴーグルの汎用化が進んでいるため、VR世界をデザインできるVRデザイナーのニーズも急速に高まっています。仮想的な旅行や娯楽など、VRの用途はまだまだ広がっていくことでしょう。
・民泊オーナー
民泊とは、住宅の一部あるいは全部を活用して宿泊サービスを提供する仕事です。旅館業ほど大規模な施設が必要ないため、世界中で民泊サービスが広まっています。ただし日本では、民泊サービスをするには旅館業法上の許可が必要であるなど厳しい規制が設けられているため、それなりの準備が必要です。
・仮想通貨トレーダー
株式やFXではなく、仮想通貨の価格の変動を利用して利ざやを得る職業です。仮想通貨の価格変動は激しいとされ、首尾よくいけば膨大な利益を手にできるとされています。2017年から2018年初頭にかけてバブルが発生したことで注目を集めました。ハイリターンなだけにリスクも高く、誰でも簡単に稼げるわけではありません。
今後さらに進行すると予想される社会の変化
社会の変化は、これからもとどまることなく続いていきます。その中でも職業の消滅と登場に関係しそうな変化を3点ピックアップしてみます。
超高齢化社会
超高齢化が進み、労働力人口が減少することで経済成長へのブレーキとなることが懸念されます。日本を始めとした先進国では既にかなり高齢化が進行していますが、これからは新興国でも徐々に進行していくはずです。
高齢者が増えることで、年金制度や介護問題などが深刻化します。また消費が落ち込み、社会の活力の低下も懸念されます。その一方で、健康な高齢者向けのサービスが拡大するとともに、ビジネスにおけるシステム化・省力化による効率の向上など、ポジティブな影響も考えられます。
キャッシュレス化
電子マネーやクレジットカードの利用がますます進み、現金の取り扱いに際しての手数料や手間などが軽減されていくでしょう。これに関連したフィンテック(金融とITを組み合わせた造語)サービスが次々と誕生する可能性も高いです。
ただし、大規模な災害が発生してインフラに大きな被害が出ると、キャッシュレス決済は使えなくなります。こうした際の対応が課題です。
AIのさらなる発展
AIがますます発展し、データの入力や機械の組み立てなどといった従来の単純作業が人間の手からAIへ置き換えられていくでしょう。その意味では、AIが人間の仕事を奪うという言い方ができます。
その一方で、全ての仕事がなくなるわけではありません。むしろ、AIの進化によって新しい仕事も増えていくはずです。前の見出しで紹介した職業はその一例ですが、ほかにもAIやビッグデータを取り扱う職業へのニーズの高まっていく可能性が高いです。
今後生まれると予想される主な新しい職業
社会の変化を踏まえて、将来的に発生すると予想される職業をいくつか考えてみます。テクノロジーと人間の間に立つ職業へのニーズはなくならないはずです。
話し相手
高齢者の単身世帯が増加するため、高齢者の話し相手のニーズが出てくるでしょう。周囲の世話のみならず、人の孤独にアプローチするような精神的な支援、そしてコミュニケーションが強く求められるようになるのです。
この話し相手を人間が担うか、AIが担うかは判断の分かれるところです。話すだけでなく身体的なケア(歩行同伴など)が必要であると考えると、人間の方が適しているかもしれません。一方でAIの会話能力が目覚ましく向上していることを考えると、AIでも高齢者の話し相手サービスを担える可能性もあります。
家庭用ロボット開発デザイナー
IoTやロボットをキーワードとして、インターネットにつながれた家電製品が増えています。これによって高齢者の見守りや防犯など、新たなサービスを生み出しているのです。そうなると、そうした新しい家電・ロボットを開発できるデザイナー、修理できる修理工のニーズは高まるでしょう。
仮想通貨スペシャリスト
仮想通貨のブームは2018年に収束したものの、仮想通貨自体が消滅したわけではありません。仮想通貨が決済手段や資産として一般化していくのであれば、今後、仮想通貨に関する管理・運用のアドバイスをできる人が必要になるでしょう。いわば「仮想通貨専門のFP」のような立ち位置です。
リモートドクター
AIやIoTで実現できる機能の一つとして、遠隔医療があります。人間の医者と対面しなくても、僻地に住んでいても、オンラインで高い質の医療を誰でも受けられるというものです。そうなると、AIドクターを動かせる技術者が遠隔医療に対応できる人間の医者の需要が高まると考えられます。
子供は自分が「理解できない」と思うような職業に就く可能性が高い
急速な社会の変化に伴い、これまで将来安泰と思われていた職業が逆風を受けていたり、荒唐無稽と思われていた職業のニーズが高まったりと、仕事や働き方のスタイルも大きな変化を見せています。
子供には将来安泰で「お堅い」とされる仕事に就いてほしいと思っていても、現在の大人が「お堅い」と考える仕事が将来的にもそうであるとは必ずしも言えないのです。むしろ、自分には考えられないような仕事に子供が就くものだと考え方を改め、社会の変化をポジティブに楽しめるようになるとよいでしょう。